mirai

REPORTS

report

オープンゼミ:自分の居場所の見つけ方

Want create site? Find Free WordPress Themes and plugins.

テーマは、「自分の居場所の見つけ方」。

ゲスト講師:綾村恭平氏  (株式会社リビタ)
参加メンバー:建築系大学生20名+社会人7名

株式会社リビタの綾村恭平さんをお迎えしてお話を伺います。自らもシェアハウスで暮らした経験を持ち、現在はリノベーション・プランナーとして活躍する綾村さん。建物や空間の見立てを変え、そこに新たな価値を創出していく。その仕事とプライベートの両方に通じる人生のテーマは「誰かにとっての居場所づくり」。そんな綾村さんが手がけてきたプロジェクトや考え方をお聞きしながら、ワークショップでは参加者それぞれが大切だと思う居場所を共有し、居場所とは何かを考え、掘り下げました。

 

 

1.リノベーション・プランナーという肩書き
もともと新築物件には興味がなく、最初からリノベーションをやりたかったという綾村さん。その理由は、リノベーションの本質が「価値のなくなったものに価値を持たせられること」にあるから。その建物にあった昔の意匠から使い手の文脈を見い出したり、その空間に関わってきた痕跡を新たな魅力として昇華できるのがリノベーション。空間を見立てる、空間の視点を変えることに、面白さとやりがいがあるのだそうです。

リノベーションという言葉がまだ一般的ではなかった頃から、戸建てやマンション一棟の丸ごとリノベーション、またシェア型賃貸住宅やコワーキングスペースなど、不動産の新しい価値をつくり続けてきた株式会社リビタ。リフォームが「建物の修繕や現状回復」、つまり問題のあるところを直すための手法であるのに対し、リノベーションとは「建物の使い方から考えて、新しい価値を持たせる」ことを意味します。リビタは暮らしをリノベーションする会社として、マンションやホテル、社宅や独身寮をシェアハウスや商業施設として生まれ変わらせ、その企画から運営までを手がけています。綾村さんは、そうしたプロジェクトの調整役となるリノベーション・プランナーとして活動しています。

 

<リノベーション・プランナーの役割>
●建物の価値を見出し、新たな使い方を考える
●誰とどう作り、どう運営するかを考える
●法的な検証、事業性の検討を行い、実現する方法を考える
●設計者やデザイナーと空間を考える
●グラフィックデザイナーやコピーライターと伝え方を考える

 

ここでは事業性と社会性をどう両立させるかがポイント。利益だけでなく社会的価値のあるものであるべきだけれど、ボランティアでは成り立たない。そのバランスを見極め、より良い使い方を考えることが大切だという。プロジェクトを進めていくにあたって綾村さんが意識しているのは、“誰かにとっての居場所づくり”。居場所とは「その人が心を休めたり、活躍できる場所や環境」のこと。仕事だけでなくライフワークにもなっているというこのテーマから、綾村さんの公私にわたる活動を紹介しよう。

 

 

2.仕事から“居場所”を考える
■築40年の古い物件をリノベーションした「THE HARBOUR SHIBAURA」

■築42年の小ビルをシェアハウス・シェアオフィスにコンバージョンした「BEAKER日本橋人形町」
1階に店舗を入れることで人の賑わいが生まれ、いろんな人たちが集える居場所を創出しています。

▲THE HARBOUR SHIBAURAの施工前と施工後 

 

 

■高尾山の中腹にある売店「高尾山スミカ」
眺望が良かった2階の休憩室をレストランにしたり、屋上テラスや展望台を新しく作るなど、ここで過ごす人たちの時間を豊かにする居場所を創出しました。

▲高尾山スミカの展望台、屋上テラス、レストランの様子

 

 

■株式会社リビタが関東地区で運営するシェアハウス「SHARE PLACE」
平均して40〜50室、大きなものでは100室を超えるような大規模シェアハウスにおける居場所の作り方として、大切なのは距離感とコミュニティ。シェアハウスだからといって何でもシェアしたいわけではなく、「部屋に一人でいる」or「共有部で皆とワイワイする」という2択では息が詰まってしまう。ここに「共有部に一人でいる」という、もう一つの選択肢を与えられる空間づくりをすることで、プライベートとコミュニティケーションが心地よい距離感でグラデーションになって存在できる。それが無理のないコミュニティづくりであり、住み心地につながっていくのだといいます。

そのためには、ラウンジなどの共有スペースがどうあるのかがポイントになってきます。「SHARE PLACE」では、キッチンやバスルームだけでなく洗面所も共有部に設置され、部屋に水まわりを一切持たないことで共有スペースが広くなり、ラウンジやシアタールーム、ダイニングキッチンなどに様々なスタイルを盛り込むことができます。例えば

「SHARE PLACE 明大前」のラウンジは115平米もの広さがありますが、それを一つの空間にするのではなく、6つにゆるやかに分けることでスタイルの異なる空間が生まれ、それぞれに違う過ごし方ができる居場所を創出。同じラウンジ空間であっても、ハイチェアに座っている、普通の椅子に座っている、ソファに座っている。そうやって目線が変わるだけで、同じ空間にいても目が合うということがなくなり、心理的にも楽になるのだといいます。

またラウンジなどの共有スペースは、空間としての物理的な居場所になるだけでなく、そこで生まれるコミュニティも居場所の一つになります。自らもシェアハウスに2年間住んでいた経験をもつ綾村さんは、そこで関わった人たちと今もつながっていて、人生の出会いにもなったと振り返り、「シェアハウスには、同世代のコミュニティや出会いがあり、自分の居場所にもつながっている」と言います。


▲SHARE PLACE内。人と人が向かい合うスペース。


▲SHARE PLACE内。壁に向かって、一人で過ごすスペース。

 

 

3.プライベートから“居場所”を考える
■大学の友人達、同年代の仲間達とのコミュニティ
綾村さんのプライベートな居場所としてまず挙げられるのが、金沢の別邸とそこに集う仲間たち。金沢の大学を卒業した後、友人たちと借りた部屋を改修したり貸したりしながら維持しつつ、そこに集まっては皆で楽しく過ごしているといいます。そうした長い付き合いの中での居場所とは別に、リノベーション業界界隈で働く30歳前後の人たちが気軽に参加できる大忘年会を開催。100人から150人も集まるというイベントは今年で6年目を迎え、オフラインからオンラインサロンへと発展しているのだとか。同じ業界でつながった人たちが、それぞれの居場所を見つけているようです。

 

■様々な人と繋がる場所
ほかにも様々な企画があります。例えば「銭湯」などテーマをあげて、一つのことを突き詰めて話し合ったり、トークイベントで話を聞いて終わりではなく、アウトプットする機会を作ろうとしたり、普段なかなか取り組めずにいる「深掘りすること」を、徹底的にやってみるという試み。また長野の別荘地で行われた“別荘地の新しい楽しみ方”では、何もかも手作りでとことん楽しんでみようと呼びかけました。最近では、実家の元喫茶店を活用した新しいプロジェクトも思案中。これからもローカルなエリアで、気の許せる仲間と、面白い居場所を作っていきたいといいます。

 

4.居場所づくりで心がけていること

綾村さんには、居場所づくりで心がけていることが3つあると言います。

1)自分がやりたいことであること。
これが大前提。やっている人、中心になっている人の熱量がすべてなのだとか。

2)参加者が主体的に関与できる場であること。
提供されたものをただ受け取るだけにはしない。何かしら関わっていけるような仕組みが必要。

3)場としての持続性を持たせること。
1回限りのイベントは頑張れば何とかなるけれど、続いていくことに意味があり、続いていかないと文化やコミュニティになっていかないので、最初の段階でどう続けていくかを考えておくべき。

 

公私にわたって「居場所づくり」をテーマに活動している綾村さんは、「居場所は一つあればいいのではなく、たくさん持っていた方がいい」と言います。それは、いろんな居場所をいくつも持つことで、自分をリセットしたり、逃げ場にもなってくれるからです。これからも金沢・東京・地方都市で自分の居場所を増やしながら、いろんな暮らしをしていきたいのだと言います。誰かの居場所、そして自分の居場所を作るために、自ら考えて動いて、そして自分でプロジェクト化する。そんな綾村さんの活動を聞いたところで、いよいよワークショップに進みます。

 

 

5.ワークショップ「自分の“居場所”を考える」
【目的】

居場所=心を休めたり活躍できたいるする場所。そうした場所とはどういうところなのか。参加者それぞれが思う居場所を共有することで、居場所とは何かを改めて考える。

 

【方法】
7名程度の4グループに分かれ、自分にとっての居場所を考えてグループ内で共有する。ある場所という「空間」なのか、椅子といった特定の「モノ」なのか、何かをしている「時間」なのか、それとも「コミュニティ」なのか。なぜそこなのかまで、自分なりに掘り下げて分析してみる。

 

【結果】
発表からそれぞれの「居場所」を抜粋
●家の中にも居場所はあるけれど、外に出た時を考えると自分はコーヒーが好きなので、珈琲豆を買いに行った先で話をしている時間がすごく楽しいと思った。それが一つの居場所かもしれない。
●ずっと陸上競技をしてきて、競技を止めた今も陸上競技場に足を運んでいる。そこに行けば誰かに会える気がするし、そこにいると自分が落ち着く居場所になっている。
●仕事や趣味の中で居場所ができることが多いけれど、今の仕事だけでなく、昔のバイト先の仲間も大切な存在。就職してからもバイト先に顔を出している。自分をリセットできるし、ある意味で逃げ場にもなっていると思う。
●大学でカメラにはまって、仲間同士でつくったカメラ会が居場所になっている。みんなが同じ熱量で好きなことの話ができるからとても楽しい時間を過ごしている。
●引退した高校の弓道場に今も足を運んでいる。いつ行っても人がいて、いなくても安心できる自分の居場所になっている。
●家の駐車場にあるコンクリートブロックが、今の自分の居場所。幼い頃はただのブロックだったけれど、大人になってからは友人と一緒にそこに座って、帰り際にいろんなことを気が済むまで話をする場所になった。これも大切な居場所だと思う。

 

Facebookなどで簡単につながり情報もたくさん入ってくる中で、同じ熱量・知識量で話ができる場はとても貴重だと綾村さんは言います。「何かやってみようという熱量が居場所につながる。そこにはいろんな出会いがあって、人生の伏線を回収していくようなもの」だと。そして、自分で仕掛ける、行動を起こすことが、関係性を紡ぎ出すきっかけになると教えてくれました。

 

【考察】
結果を見ると、居場所というのは、物理的な要素よりも、趣味や思い出といったような精神的意味合いが強いように感じられます。大きく分けると、趣味やサークルなど現在進行形のものと、過去の良い人間関係の上に存在している場所です。共通して言えるのは、心の拠り所のようなところでしょうか。田中元子さんのオープンラボでも触れましたが、人の豊かさのキーワード、“他者との関わり”、“能動性の発露”、“(自分が他者が)自由・多様・許容しやすい環境 ”が、今回の居場所にも大きく関係してくる要素だと感じています。
今回の居場所の話をしている時に、2013年に山口県周南市の限界集落で起こった事件を思い出しました。一度は都会に出たもののUターンで帰ってきた住民が、近隣の住民とうまくいかず、5人を殺害、放火した事件です。殺人・放火を犯したことは悪いのですが、限界集落という濃厚な人間関係の上に、居場所を築くことができずに生まれた悲劇だと思っています。Uターン、Iターンを試みるも、こうした壁から馴染むことができずに断念する方も多いのだと聞きます。
技術革新によって希薄になった人間関係を嘆きながらも、人間関係があるところにも問題が生じてしまっている現実。そこに住まう人の意識の問題かもしれませんが、こうしたことも仕組みで解決できるのか、人口が減少し、限界集落が増えていく中で、大きな課題だと思います。

 

Did you find apk for android? You can find new Free Android Games and apps.