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オープンゼミ:「街の豊かさをつくる新しい仕組みづくり③」
付添人:小堀雅康氏(株式会社デンソー)
参加学生:8大学45名の大学生、大学院生(11チーム)
【目的】
全4回で「街の豊かさをつくる新しい仕組みづくり」を考えるゼミ。第3回目は、実現したい暮らしを具体的に考える。名古屋市で住みたいエリア第5位となった名古屋市緑区にある鳴海の街を舞台に、具体的なエリアでの暮らしを想定してみる。人はどんな暮らしを望んでいるのだろうか。この後も続いていくゼミに臨む姿勢を学び、より充実したものにしようというもの。学生たちの思考がどのようにほぐされ、他者の思考に刺激されていくのか?約2時間にわたるセッションと、学生たちによる意見の交流を振り返る。
【想定エリア】
名古屋市緑区諸の木二丁目における敷地周辺
地下鉄徳重駅から徒歩30分程度
【方法】
ステップ1:理想の街を紹介する
前回は、未来で実現したい暮らしがどんなものかを全員でリストアップし、60案の暮らしを描いた。学生たちへの課題となったのは、前回の議論で生まれた他者の意見を踏まえて、理想の暮らしを改めて考えてくること。そして今回、グループのメンバーそれぞれが望む暮らしを実現できる街とはどういったものなのか。グループごとにまとめ、その街を紹介することからワークショップがスタートした。
ー発表スタイル
「街のキャッチフレーズ」
・どんな暮らしなのか?
・どんな人に良い街なのか?
・実現するとどんな嬉しさがあるか?
ー発表例
「一人じゃない街」
街のいたるところに集える場所があり、行けば必ず誰かに会える。自分で居場所を選択できる街。具体的には、送迎のバス停付近にカフェがある。みんなのリビング・みんなの食堂という公共スペースがある。一緒に農作業ができる庭園がある。そこに行くかどうかは自分で決められ、そこには常にコミュニケーションがある。
「ナチュライフ」
時間の効率化にしばられない=ナチュラルであるとし、自然体で生活できる街。具体的には、電線や電柱がなく看板も電照化することで自然な景観がある。車道よりも広い歩道があり、歩道に面した建物の1階にはカフェやショップがある。仲間同士が集い利用できるモバイルハウスがある。仕事と教育でデータ共有できる環境がある。
「みんな大好き!鳴海の街」
いろんな世代が交流できる環境と、便利で安全な暮らしが実現する街。具体的には、お年寄りと子供が一緒に遊んだり話したり食事ができる公共スペースがある。家から買い物へ安全に行ける地下の直通商店街がある。公園にいろんな情報が集まる掲示板がある。高齢者が子育て世帯と一緒に子供たちを見守ることができる。
「老若男女が楽しめる町 鳴海」
公園やアミューズメントパークを作る。地域通貨を発行。老若男女、日本人も外国人も楽しめるようなエリアを作る。
「地域のつながりをつくる街」
雨でも遊べる公園、習い事で帰りが遅い子供達と一緒に帰る見守りロボット、空き地を利用して地域の方で運営する菜園、菜園で採れた野菜を利用して子供食堂を運営。公園で遊ぶ機会が増えることで、お母さん、子供のつながりが増え、菜園・食堂の運営により、地域の繋がりが育まれる。
▲「地域のつながりをつくる街」の発表。代表者達がチームの案を説明していく。
▲発表終了後は、学生達がお互いに質問をし、議論を深める。
ステップ2:手段から考えず、まずは欲求に従う
「どんな暮らしがしたいのか?」=「どんな欲求があるのか?」
例えば、「残業のない暮らし」がしたいのであれば、残業がないと何が嬉しいのかを考えてみる。そこには自分の時間を増やしたいという欲求があるだろう。残業がなくなることは、その欲求を満たすための一つの手段でしかない。何が自分の時間を奪っているのかを考えれば、他の手段も見えてくる。通勤の時間ならば通勤アクセスが良いことだし、家事の時間であれば家事をシェアしたり誰かに手伝ってもらえることになる。集中できる環境によって作業効率を上げることや、睡眠の質を上げて睡眠時間を短くすることも一つだ。「残業のない暮らし」を望んでいる本質には「自分の時間を増やしたい」という欲求があることを踏まえ、街に置き換えた時に自分の時間を増やすためにどんな方法があるだろうかと幅を広げて考えてみる。
手段から考えるのではなく、欲求から考えてみること。
どんな欲求をかなえたいのか?またはどんな困りごとを解消したいのか?そのための手段は何なのか?頭に浮かんだことを、これで良いのか悪いのかと考えずに、自分の欲求を思い付くままに挙げてみて、そこから実現したい暮らしを考え、そのアイデアを練る。これは個人ワークとして展開された。
<考えるポイント>
「こうありたい、こうなりたい(欲求)」 があって、それを満たすための手段として、
・こんなサービスがあれば嬉しい
・こんな道具や手段があれば便利だ
・こんな街のルールがあれば快適だ
ステップ3:アイデアをまとめる
理想の暮らしやそこにある欲求が目的であり、それを実現するために手段がある。自分の思考が手段に陥っていないか、手段と目的を混同していないかを確認しながら、個人ワークで深めた思考とアイデアを、まずは二人ペアで発表し合い、自分の考えを整理してみる。今回は、鳴海で実現したい街の暮らしと、そのために必要なサービス(手段)としていろんなアイデアを出していった。次回までには、これらをまとめて街のサービスとして仕上げてくることが学生たちへの課題となった。
<アイデアのまとめ方>
「アイデアのタイトル(街のサービス名)」
・アイデアの概要を説明する
・どんな人が利用するの?(ユーザー)
・どんな場面や頻度で利用するの?(シチュエーション)
・利用した時にどんな嬉しさがあるの?(価値)
・周りにどんな波及効果があるの?(プラス/マイナスの影響)
※マイナスの影響におけるリスク解決の方法も考えてみる
ありたい姿を想像し、具現化する。そしてまたより欲求をそそるものから、ありたい姿を考えて具体化する。抽象化と具象化を行き来する作業は、一見、進んでいないように感じることもああり、学生には辛い作業かもしれない。ただ、繰り返すことで思わぬ発見も生まれる。自分たちが考えた案は本当に魅力的なのか?を問い直すことで、アイデアはどう進化を遂げるか?次回は、⼤⼈たちも一緒にチームの中に入り、学生のアイディアを具体的なサービスに導いてみる。
主催:中電不動産株式会社
協力:株式会社デンソー
企画・運営:未来デザインラボ(株式会社ラ・カーサ、1/ 千、SUVACO 株式会社)