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オープンゼミ:「共有できる価値あるものとは?」
オープンゼミ第三回。
テーマは、「リアルな場で交換、共有できる価値あるものとは?」
【目的】
自分の好きなこと、得意なことについて考える。社会を経験している大人と柔軟な発想を持つ学生が、「好きなこと」をテーマに対等にディスカッションすることで、新たな建築的発想を生み出す。また、自身の好きなものを相手に伝え、共感を引き起こすことは、クリエイターの原点でもある。建築の企画設計している者として、自分自身の価値観を今一度確認するという教育的側面もある。
【方法】
学生22名(修士3名、学部20名)、社会人7名が参加。
4グループに分かれてディスカッションを行う。
1.自分の「好きなこと」、「興味のあること」、「得意なこと」を各一つずつ書き出す。
2.2人1組になる。各項目ごとにインタビューを行い、お互いの詳しい情報を聞き出す。
3.グループ内で、インタビュアー側が内容を発表する。
4.全員の発表終了後、面白いなと思うものを2つに絞り込む。
5.選んだ2つの事柄から、空間化できるものを選び出す。
(実際に空間化できるかどうか、どのようなシステムで運営すればいいのかなどの観点から)
【結果】
文字を書く空間
PCやスマホ利用が増え、“書く”ことが減ってきている。PCや携帯で誰しもが読みやすい文字で文章を作り出すことは、コミュニケーションにとって効率的であるとは言える。しかし一方で、文字を美しく書いた時の楽しさ、文体や字形に宿るその人の心理状態や個性、書くことが与える気持ちや考えを整理する時間は、大切な要素だと考え、「文字を書く」をピックアップ。
具体的なアイデアとして、駅のプラットホームに、書くためのスペースを作る。例えば、大切な人への手紙を書く、気持ちを紙にぶつけてくしゃくしゃにして捨てる、履歴書を書く、自分のアイデアを書き出して整理するなど・・・。スペースには、ペン・便箋・ゴミ箱を用意し、駅では、切手や封筒、ポストがあり、その場で投函できる仕組みを作る。
大学の一角に共同キッチン
一人暮らしは、「食」が乱れる傾向にある。なかなか自分一人のために料理をする気になれず、気づけばコンビニかインスタントの食事頼りに。そうした結果、体調不良を引き起こしてしまうことがしばしば起こってしまう。一人暮らしする誰もが、きちんを手作りの料理を食べ、食生活を愉しむにはどうすれば良いのか。
そういった議論の中から、全面禁煙化に伴い使われなくなった大学の喫煙所に共同キッチンを作るというアイデアが生まれた。共同のキッチンでは一人暮らしをする有志の学生を組織し、当番制で皆の料理を作るというルールをつくる。すると「他者のために料理をしなければならないという強制力」、「おいしい料理を振る舞いたいというモチベーション」、「他者と一緒に食べる楽しさ」が生まれるであろう。
このように、大学内の使われないスペースを再活用した「場」と「仕組み」で、一人暮らしの「食」を彩っていくことはできないだろうか。
インフラのない暮らし
現在社会でインフラのない生活は考えられない。そこには、私たちが味わったことのない豊かさや本質の探究があるのではないかという考えから生まれたアイデア。電気がない代わりにキャンドルやランタンを焚き、ガスがない代わりに火を起こす。一時的に敢えてインフラを断つことで、本当の自分の感覚や感性とだけ向き合えたり、これまでの生活では繋がり得なかった新しい人間関係が生まれるイベントを企画。例えば、建物の中に遮断された一室を設けたら。例えば、市街地の人たちを巻き込んで1日限定のキャンドルイベントを組んだら。例えば、ふいに集められた同士で森に籠るツアーがあったら。防災訓練のシミュレーションにも使える側面をもつ。
多国籍リノベーション
様々な言語・文化を学ぶことがベースに生まれたアイデア。日本の古民家や一般的な住宅を、様々な国籍の方達がリノベーションをする。国が異なれば暮らしが異なるが、家の作り方は互いの妥協点を話し合いながら進めていく。リノベーションに参加した外国籍の方々は格安もしくは無料でその家に住むことができ、家賃の代わりに自国の文化を伝えるワークショップを行う(言葉を教える講座や料理教室、アクセサリー作りetc…)。外国に興味を持つ日本人も参加し、多国籍な文化とコミュニケーションを生む場となる。自分たちで作り上げた空間と環境で、外国籍の方の長期滞在につながるという新しい場づくりのアイデア。
【考察】
3年前卒業した研究室を招いてのオープンゼミとなった。
どんなプロジェクトでも自分が主体的に捉えなければ面白くないし、良い結果を生み出せないことはこのゼミで学んだように思う。
その上で今回のゼミを振り返ってみると、自由な状態でコンテンツ作りに重きを置いたこのゼミは学生にとって不慣れで難しくなってしまったかもしれないと思いつつ、普段、誰かのためにプロジェクトに邁進している彼らにはちょっとした息抜きと自分でプロジェクトを作る主体性を感じるきっかけとなったのではとも思っている。
このオープンゼミで考えたことやゼミの仲間との議論が今後の後輩たちがより主体性を持って活動するための一因に少しでもなれていたらと思う。
(考察執筆:兼松啓 株式会社1/千所属)
【協力】
名城大学 生田研究室