REPORTS
オープンゼミ:「都市開発を体感しよう!」
第4回オープンゼミ
建物から人を変え、街を変えるワークショップ「都市開発を体感しよう!」
ゲスト講師:吉田雅史氏(株式会社ブルースタジオ)
参加学生:建築系大学生25名
設計だけでなく、不動産から広告まで。
街にとってもビジネスにとっても価値を最大化させるクリエイティブを模索するデザイン会社の株式会社ブルースタジオの吉田雅史さん。彼のメインフィールドは都市計画。特に地方の都市計画は、デザインの良い建物を作っただけでは人は来てくれない。
もともとある街の魅力をどうブランディングして、どんな人を集めるか。そのためのトータルプロデュースのヒントを、実際の都市計画の流れを模擬体験する方法で教えて頂いた。
さらには東工大、ヘルシンキ工科大学、東大、上海インターン、一流企業での都市計画コンサル…とたくさんのフィールドに飛びこみ果敢に自分の経験値を広げてきた吉田さんだからこそ伝えらえる、今後の就職活動にむけた考え方やスキルのアドバイスも。学生たちへの熱いエールがたっぷり詰まった約3時間の講義を振り返る。
そもそも、都市開発は誰がどうやって行っているの?
①住民が住み始めてまちができます。
②まちで皆が暮らすため、行政がルールを考えます。
③デベロッパーが土地を買います。
④デザイナーにデザインを依頼します。
⑤できた案を行政や住民がチェックし、許可します。
⑥工務店やゼネコンが工事を行います。
⑦充実したまちを会社や個人等が利用します。
⑧行政は税金を集め、公共サービスを提供します。
この②から⑤が都市開発の領域だが、ここには4つの登場人物がいて、各々に次の役割がある。
住民は
「そこで住む」
「そこで働く」
デベロッパーは
「開発用に土地を買う」
「開発のお金を払う」
行政は
「街のルールを決める」
「マスタープラン作成」
デザイナーは
「建物を設計する」
ワークショップは、この4つの役割(住民・デベロッパー・行政・デザイナー)にわかれてチームを作り、ロールプレイングをしてみるという内容。
場所の設定は、名古屋駅前大名古屋ビルヂング跡地だ。
Q1.何が目的?(その開発を通じて何を得たいか、何のために開発するか)
Q2.どんな開発にする?(どんな開発にするか、コンセプトは?機能は?デザインは?)
これがワークショップ前半戦の課題。本気でその立場に立って考えてみよう!との投げかけに、少しの間、息を詰まらせる学生達だったが、さすが吉田さん、各テーブルを回りながら思考の切り口を与えたり、的確なアドバイスをする。「出たアイデアに対して、なんで?なんで?なんで?と深堀りを繰り返すとより本質的な目的を創出してほしい。」空気がほぐれ徐々にメンバーに会話が生まれていく。
アイデアやキーワードを模造紙にまとめて1分間の発表。さらに他の3チームからの“反対意見”を聞くところがミソのようだ。
ーデザイナーチーム
「名古屋が“訪れたくない街第1位”を脱却するために、住民が選んだコンテナの店舗を置き、心地よく、かつ可変的に名古屋の魅力を伝える芝生公園」というアイデア。「おしゃれで雰囲気が良く治安が良くなりそう」(行政)、「芝生はメンテナンス料が高い」(ディベロッパー)に対して「コンテナ出展者にメンテナンス料をとれる」という応戦も。実務の現場でもデザイナーがメンテナンスや収益についても答えられないようではい提案は通りません、というお話もあった。
ー行政チーム
実は行政の立場が一番難しいのだとか。人が集まって税収があると嬉しいが、だからといって安全性とか、公正性とか、失ってはいけないものもたくさんある。豊かさとはなにかということを一番考えないといけない役割かもしれない。
「集客、税収、周辺の活性化、治安…それらを叶える図書館とスタジアムを。対象にできる年齢層も幅広く、県外からの集客も期待できる」との発表に対しては、図書館で「県外から集客ができるのか」(デザイナー)「収益できるのか」(ディベロッパー)という反論が。これは実際の図書館計画でもよく提起される課題だが、図書館をあえて敷地の奥に配置しつつ、そのアプローチ上に商業施設を置くことで収益性を高めるという解決の仕方が増えているとか。
ー住人チーム
いろんなアイデアを出しやすい反面、その中でより上位の概念を導きだせるかどうかが肝とのこと。“仕事と生活の両立”のために、保育所やデイサービス、学校、保育園などがあるといいという提案に対し、「儲からない」(ディベロッパー)という意見が出ました。
実際にも、資金を出すディベロッパー自体が儲からないアイデアは進まないということも多いそうです。
ーディベロッパーチーム
お金を儲けることができ、かつ名古屋を変える他にないビルとして、「オフィス×〇〇」というアイデアを提案。例えばオフィス×託児所、オフィス×ギャラリーなど。銭湯などアミューズメント性のある店舗をもち、ビル自体への入場料を取るという仕組み。
「本当に県外からの集客性があるか」(デザイナー)、「いかがわしい人が集まりやすいのでは」(行政)という反対意見で議論。
「皆さんはお金儲けって嫌って思うかもしれないが、開発ではディベロッパーがGOを出さないとカタチができない。でも本当に儲かることだけを優先しすぎると、ほかのプレイヤーからの反対で開発は進まないことも多いのが現実です」と吉田さん。
Q3.何が対立しているか?(なぜ提案が受け入れられないか、トレードオフはあるか?)
Q4.どう説得する?(どう話したら相手が納得するかの工夫)
後半戦は、グループに雇われた「都市計画コンサルタント」として、批判した相手との間に立ち、どのように両者を納得させるか考えてみるセクション。
相手のアイデアを検証したり、意見交換をしながら、アイデアの落としどころを考える。
さらに一段難しい課題に、学生から吉田さんへの質問の熱も高くなっていく。相手の希望と自分たちのアイデアの間にあるギャップやつながりを見つける整理術と、それを論拠としつつもこちらの提案のメリットを魅力的に訴求する交渉術がポイントのようだ。
ー行政チーム
デザイナーとの和解を図るために、両者のアイデアをMIXするべく図書館の前に芝生公園とコンテナイベントを盛り込む。現実的には税収の視点が弱いかな、という吉田さんのアドバイスも。
ーディベロッパーチーム
高齢者の利用性を高めるリーズナブルな価格パックやボランティア活動を設けることで、市民からの好感を得る作戦。吉田さんには、ソフトで相手の希望を解決している一方、本当に自分達のやりたいことは変える気がないよね、と鋭い突込みも。リアルな場では価格設定ひとつも厳しい議論の対象になるそう。
ーデザイナーチーム
「お金が生まれる公園」をテーマに、店舗コンテナに加え、テナントオフィスを招致することで、メンテナンス等の維持費や価格を抑えたコンテナ賃貸料が実現できると提案。
柔らかいコピーが面白いと吉田さん。実際に南池袋公園など、公園の収益を維持費に回す(Park–PFI)考え方は今の日本が直面しているホットなテーマだ。
ー住民チーム
「みんなの学校」というコンセプトで、図書館や体育館、医療施設など学校機能を時間を分断して民間に開放することで、行政チームからの税収の観点に考慮したアイデアに修正。実際に提案を進める際は収益のシュミレーションを行って、プランの実現性を検証するステップもある。
ワークショップの締めに吉田さんは次のように説く。
都市計画コンサルタントの立場は難しかったと思うがこの難しさは、あなた方が上司とお客様の間に挟まれた場合も同じ。自分で正しいと思う答えを見つけて相手を説得できなければ、信頼されなくなったり仕事がもらえなかったりするのは、どんな職種であれ社会人として共通の課題です。話を聞く学生の皆さんの真剣なまなざしに程よい緊張感が帯びてワークショップは終了した。
最後に吉田さんから学生さんへ贈られた、就活にも役立つスキル7か条をご紹介しよう。
1.いろいろなことに疑問をもち、すぐに「調べる」
一日10個調べれば、一年後に300個の知識ができている。積み重なったその差は歴然。調べ癖をつけよう。
2.他人の「目的」を想像する
デザイナーとしての視点を離れて、面接官の目的やお客様の希望など、相手の立場に立って考えることで、より合理的な思考や振る舞いができる。
3.自分の考えをシンプルに説明する
言いたいことをよりシンプルに伝えるほど、相手への伝達力が高まる。
4.鵜呑みにせずに批判的な意見を考える
教えてもらったことをすんなり吸収するだけでなく、一旦疑って違う目線から考えることで思考を鍛えることができる。
5.問題のトレードオフを見つける
何かを選べば何かを捨てなければならなくなる点がトレードオフ。お互いの合意点を見つけるのは、社会で必要なスキル。
6.相手の立場に立って説明を変える
正しいことを正しく発言すれば受け入れられるというものではない。立場によって正しさは違う。
7.複数の視点での正しさを考えた上で、自分なりの正解を考え抜く
本来ならどうするべきか?と自問し、正しい方向に両者を導くのが本当の正解。
自分もまだできているとはいいがたいけど、と話す吉田さん。学生達のメモを取るペンもガンガンに走っている。
終始、静かながら圧倒的な熱量を持ち学生をリードしつつも、丁寧に学生達と意見交換したり、自分の学生当時の悩みやスキルを披露したり。
そんな真摯に向き合ってくださる姿に、会場の学生達も素直にたくさんの知恵と勇気を吸収したに違いない。
就職活動だけでなく、人生にとっても確実に栄養となる素晴らしい講義だった。